大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)30号 判決

一、請求原因第一、二項の事実は、当事者間に争いがない。

二、甲第六号証(本件特許権の特許公報。なお本件の書証は、いずれも成立につき争いがない。)によれば、

本件特許発明は、伸張可能なリンクバンドことに腕時計バンドかかり、該バンドは、中空リンクおよびこれを互いに関節的にかつ伸張可能に結合し、発条作用に抗して旋回しうべき結合リンクより成るものであつて、その特徴とする構成は、請求原因第三項において原告が主張するとおりのものであること(但し、同項末段の「なお」以下の部分を除く。この点については本件を判断する上に必要がないから立ち入らない。)、そしてそのような構成をとることにより該リンクバンドは、きわめて大きい伸張性、可撓性を有し、バンドの伸延にさいし間隙や収縮を生じることなくバンドは常に同一の密集した外観を維持すること、またリンクバンドは鞘、結合彎曲片および板発条の三部材のみから成り、各部分はろう着、鋲着を行うことなく組み立てられるから、その設計、組立は著しく簡単となり製作は著しく経済的となり、各部分の交換が容易であること、板発条の弾性抵抗が強大であるから弛緩または破損のおそれのないこと等の作用効果をもつものであること

を認めることができる。この認定に反して、本件特許発明の特徴とすべき事項を被告主張のよう(被告の主張第三項のイ、ロ、ハの三点)に限定して解さねばならぬとする資料はない。

したがつて、本件実用新案が右特許権の権利範囲に属するか否かを考えるには、該実用新案のものが右のような本件特許発明の構成を具備するものであるかどうかを(右のような作用効果の有無を考慮して)判断すべきである。

三、ところで、原告が本件権利範囲確認審判の請求にあたりその目的として特定し、したがつて審決がその判断の対象としたところのものは「本件実用新案」であるから、それが本件特許権の権利範囲に属するか否かを判断すべく、まず本件実用新案の要旨について考える。いうまでもなく、実用新案の考案の要旨は、その説明書の「登録請求の範囲」の項の記載にもとずいて解釈すべきものであるから、その記載自体からは考案の内容を把握できないような場合に説明書中の他の部分の記載を参酌してこれを補う必要があるのは格別として、登録請求の範囲の記載自体から考案の内容を適確に理解しうる場合にまで、みだりにその記載以外の事項、例えば実施例に関する事項を取り入れたり、請求範囲として記載のある事項を無視したりして、その範囲を減縮したり拡張したりするような解釈をすべきではない。

四、甲第一号証(本件実用新案の実用新案公報)によれば、

本件実用新案の説明書中「登録請求の範囲」の項には、「空間部2・2´を挾んで相対する内縁に係止縁3・3´を設けて断面<省略>形状に造つた長方形連鎖片1・1´を互いに齟齬するように相対向せしめ、これらの連鎖片1・1´の空間内側に開放部5・5´を有しかつその開放部5・5´を挾んで相対する内側に係止縁6・6´を設けた断面<省略>形状の連結片4・4´を交互に向きを変えて挿入しその連結片4・4´を連鎖片1・1´の係止縁3・3´に係止せしめてなるバンド形成基体の構造」と記載されており、また同説明書中「実用新案の性質、作用および効果の要領」の項には、右のような構造の連鎖片および連結片からなるバンド形成基体に弾片7を組み入れることにより連鎖状態を形成することができ、その場合これを組立てまたは分解するには連結片4・4´を<省略>形状連鎖片の空間部2・2´の中央に寄せ弾片とともに一方に抜き挿しすればよく、組立解体が自由でバンドの長さの調節が容易であること、また連結片4・4´が断面<省略>形状に一連のものとされているためみだりに外れない、という作用効果を奏する旨の記載がなされていること

以上の事実が認められる。

してみれば、右のような説明書の記載から本件実用新案は、「断面<省略>形状の長方形連鎖片」と「断面<省略>形状の連結片」とを構成部分とし、これらの構成部分を、連鎖片1・1´を互いに齟齬するように相対向せしめ、これらの連鎖片の空間内側に右連結片4・4´を交互に向きを変えて挿入しそれらの連結片を<省略>形状連鎖片1・1´の係止縁3・3´に係止せしめるような構造に組み立てることをその構成要件とし、そのような構成にもとずいて(そのような構成のみにもとずいて)前記のようなバンド形成基体としての作用効果を奏せしめるものである、と解するのが相当である。

したがつて、右以外の事項、すなわち原告主張のように弾片を用いそれを連鎖片・連結片とともに原告主張のように組み立てるという点についてはたとえ甲第一号証によれば、本件実用新案の説明書中「図面の略解」、「実用新案の性質、作用および効果の要領」の項および添附の図面にこの点に関する記載があることは明らかであるにしても、それは単に本件実用新案にかかる前記認定のような「バンド形成基体」の―これに弾片を組み入れての―用途ないしは実施例に関する記載にすぎないものとみるべきであつて、これをもつてこの実用新案を構成する不可欠の要件であるとすることはできない。本件実用新案にかかる「バンド形成基体」を右のような用途ないしは実施例の記載に倣つて前記弾片を組み込み製品化した場合に、その製品が本件特許権に牴触するかどうかの問題はありうるとしても、それは本件実用新案のものとは別個の構造をとり入れたことによるものであつて、そのことと「本件実用新案」自体が本件特許権の権利範囲に属するかどうかの問題とは区別されなければならない。

五、これを要するに、本件実用新案のものは、さきに認定した本件特許発明の特徴事項のうち、板発条(弾片)を構成部分としこれを原告主張のように鞘(連鎖片)および結合彎曲片(連結片)と組み合わせるという構成を欠き、それに伴つて前認定のような本件特許発明のリンクバンドのもつ作用効果を奏しえないことは当然であるから、すでにこの点で本件特許権の権利範囲に属しないというべきである。

六、よつて、その他の争点について判断するまでもなく、原告の権利範囲確認審判の請求を排斥した審決は正当であるから、その取消しを求める原告の請求は失当としてこれを棄却する。

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